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ことしのビーム物理研究会は12/5-7,SpRing8で行われます。今年は他にも多くの会議・研究会が開催されておりますが、そちらで 発表された内容でも、この研究会において発表していただくことにより より深く詳細な議論ができることと考えております。
ご意見をこちらのBBSへどうぞ.
第1巻 第1号 2001年1月***第2号 2001年2月***第3号 2001年3月***第4号 2001年4月***第5号 2001年5月***第6号 2001年6月***第7号 2001年7月 ***第8号 2001年8月 ***第9号 2001年9月
編集前記
解説 超伝導リニアックとビーム力学 池上 雅紀
10/12
ビーム物理研究会入会案内
会合10/12
プロシーディングス
ネットでお勉強
この「通信」は絶えず更新を繰り返し,月末にその結果をバックナンバーとして残すことにしています.この10月号は,10月初旬は9月号とほとんど同じですが,月末にはだいぶ変わったものとなり,その変わり果てた姿が,保存版としての10月号となります.原稿は1ヶ月から2ヶ月掲載されます.
今年の6月、アメリカのオークリッジ国立研究所で、リニアックにおける空間電荷効 果についてのミニワー クショップが開かれた。 名目上は「リニアックの設計における空間電荷効果と共鳴」がテーマであったが、実 質はアメリカのSNS計画の入射器であるリニアッ クが抱えている問題をどうとらえ、どう対処するかがテーマであった。 これには大強度イオンビームのダイナミクスで古く(1980年ごろ)から議論されてい る問題である等分配(equipartitoning)の問題が絡んでいる。 一般に加速器では、縦方向(ビームの進行方向)と横方向(ビームの進行方向に垂直 な方向)のビームの温度が異なる。 ここでいう「温度」とは、運動量の拡がりととらえてもらってよい。 大強度のイオンビームでは、縦方向と横方向の温度があまりにも大きく違うと、縦方 向と横方向でエミッタンスの交換が起こることが粒子シミュレーションで確かめられ ている(図1参照)。 エミッタンスを交換することにより、温度が等しい状態に近づくのである。 このエミッタンス交換を防ぐには、縦方向と横方向の温度をもともと等しくしてやれ ばよく、これは横方向の収束力(四重極磁石の強さ)を調節することにより実現でき る。 (縦方向の収束力(加速電場の強さ)を調節することによって実現することも原理的 には可能であるが、ふつうコストが高くつく。) この条件(等分配の条件)を満たせばたしかにエミッタンス交換は起こらない。 このことから、等分配の条件を満たすような設計とすることが、大強度のイオンリニ アックを設計する際のひとつの指針として提唱されてきた[1,2]。 しかし、この考え方が提唱されて以来、「本当に等分配の条件を満たす必要があるの か」、「等分配の条件は厳しすぎるのではないか」という疑問がしばしば呈されてき た。 実際、粒子シミュレーションにおいて、「等分配の条件から多少ずれていても目に見 えるエミッタンス交換は起こらない」ことが経験的に知られている。 また、熱力学的な意味での熱平衡状態への遷移は分子間の衝突によってもたらされる が、一般にリニアックでは、ビームを構成する粒子同士の衝突の確率は高密度のイオ ンビームといえども極めて小さく、この衝突だけでビームがリニアックで加速されて いる間に熱平衡状態に達するとは考えにくい。
図1:エミッタンス交換の例
PARMILAによる粒子シミュレーション結果。 KEKと原研の統合計画である大強度陽子加速器施設の結合空洞型リニアックの部分 (190MeVから400MeV)において、縦方向と横方向の温度の比をかえてシミュレーショ ンしたもの。 結合空洞型リニアックは常伝導のリニアックであり、等分配の条件を満たしたオペレ ーションができるように設計されている。 縦軸はrmsエミッタンスで、入射時のエミッタンスを1としている。 実線(赤)は縦方向のエミッタンス、破線(青)は横方向のエミッタンスである。 横軸はタンク数である。 上の図は温度が同じ場合、下の図は温度の比が縦:横=1:0.36である場合の結果で ある。 いずれの場合も、入射時のエミッタンスは縦:横=1.75:1を想定している。
今日、あらためてこの問題に焦点があてられている背景には、近年の超伝導技術の進 歩がある。 SNS計画のリニアックでは、高エネルギー部に超伝導空洞を採用することが計画され ており、そのことが以前からあるこの問題にふたたび各国の研究者の注意を集めさせ ているのである。 常伝導のリニアックでは、等分配の条件を満たすデザインにすることはさほど困難な ことではない。 ふつうは、単にエネルギーが高くなるにしたがって四重極磁石の強さを弱くするだけ でよい。 しかし、超伝導リニアック(ここでは超伝導イオンリニアックだけを考える)では、 問題はそう簡単ではない。 超伝導リニアックのメリットである高加速勾配を生かすには、1つのクライオモジュ ール(低温槽)の中にできるだけ数多くの空洞をいれたい。 一方で横方向の収束に用いる四重極電磁石は、それほど強い磁場が必要でないため、 常伝導のものを用いたい。 すると、四重極電磁石はクライオモジュールの外に設置されることとなり、どうして も収束周期が長くなる(図2参照)。 収束周期が長くなるということは、それだけ与えることのできる収束力が弱くなるこ とを意味する。(構造共鳴を避けるために、収束周期あたりのベータトロン振動の位 相進みは90度以下である必要がある。収束力の強さは、磁場の飽和によって制限され るのではないことに注意。) このことから結局、超伝導リニアックでは、等分配の条件を満たすのに必要な横方向 の収束力を与えることが難しいということになる。 この状況を打破するには、1つのクライオモジュールの中に入れる空洞の数を減らし てクライオモジュールの数を増やすか、四重極電磁石を超伝導にしてクライオモジュ ールの中に組み込んでしまうかのどちらかとなる。 クライオモジュール数を増やすことは大幅なコストアップにつながるし、四重極電磁 石を超伝導化することは磁石のアライメント方法などあらたな開発項目を抱え込むこ とにつながる。
図2:超伝導陽子リニアックの例
KEKと原研の統合計画の大強度陽子リニアックで、将来の出射エネルギーの増強を行 う際に採用が検討されている超伝導リニアックのレイアウト。 この例では1つのクライオモジュールに2つの7セル空洞が納められ、横方向の収束 はクライオモジュール外に設置された常伝導の四重極電磁石ダブレットによって行わ れる。 この図は少し古いもので、現在、統合計画では9セル空洞の採用が検討されている。 9セル空洞を採用した場合、400MeV付近の収束周期の長さは約4.8mとなる。 SNSのデザインでは1つのクライオモジュールに2つないし3つの5セル空洞が納めら れる。 横方向の収束はこの図と同様、常伝導の四重極電磁石ダブレットによって行われ、収 束周期は5.8mないし8.9mとなる。 400MeV付近では8.9mである。
つまり、超伝導リニアックの設計をしようとすると、「本当に等分配の条件を満たさ なければならないのか」という問題とあらためて真正面から向き合う必要に迫られる こととネる。 いままでは多少「アカデミックな問題」としてとらえらていたビーム力学上の問題 が、ハードウェアの技術の進歩によって、非常にプラクティカルで切実な問題として 突きつけられることとなったといえる。 プラクティカルな問題として突きつけられることによって、この問題の理解にも進歩 があった。 温度が異なるビームで見られるエミッタンス交換の背後には、その駆動力として、ビ ームの縦方向の運動と横方向の運動の結合共鳴があるという考え方である[3, 4]。 逆に言えば、この共鳴さえ避ければ、温度が異なっていても、リニアックを加速され る間のような短い時間スケールで、エミッタンスの交換は起こらない。 SNSのリニアックはこの考え方が正しいことを前提としてデザインされている。 さらに「共鳴を横切っても、その横切り方が十分に速ければ共鳴の影響はほとんど受 けない」ということをも前提としている(図3参照)。 前述のワークショップでは、このような考え方の妥当性について議論し、このような 考え方が正しいかどうかを確認するためのシミュレーション方法について議論するの が主な目的であった。 いまごろは、様々なエラーを考慮に入れた3次元粒子シミュレーションが精力的に行 われているはずである。
図3:SNSリニアックのオペレーションポイント
縦軸は、横方向のチューンディプレッションkx/kx0(空間電荷効果を考慮に入れた場 合と入れない場合のチューンの比)である。 チューンディプレッションは、空間電荷効果の強さを表し、1がゼロカレントに相当 し、値が小さくなるほど空間電荷効果が強ュなる。 横軸は、縦方向と横方向の(空間電荷効果を考慮に入れた)チューンの比kz/kxである。 色のついた部分が共鳴による不安定性が生じる部分であり、色が濃いほどグロースレ ートが大きい。 赤の十字がSNSのリニアックのオペレーションポイントであり、ビームのエネルギー が高くなるにしたがってグラフ上を移動する。 青色の矢印の根もと付近が最上流部であり、徐々に右側に移動した後、反転し、左端 まで達したのち再び反転して右端に至る。 この計算で仮定されているエミッタンス(縦:横=2:1)では、equipartition条件 を満たしていれば、オペレーションポイントは緑色の破線上にくる。 equipartition条件を満たしていれば、オペレーションポイントはこの緑色の破線上 で少し上下に移動することになる。 この図は、I. Hofmann氏の好意によって使わせていただいた。
この等分配の問題は、ひとりSNSだけの問題ではない。 SNSのような核破砕中性子源施設だけでなく、核廃棄物の短寿命化施設、加速器駆動 炉など様々な応用をねらって世界各国で大強度陽子加速器の建設が計画されており、 その多くで超伝導リニアックの採用が検討されている。 これらの加速器施設も、SNSと同様の問題に直面することになる。 このような状況に後押しされて、空間電荷効果が支配的な大強度イオンビームの力学 がより多くの研究者の興味を集め、等分配の問題にとどまらず、広く空間電荷効果に よって引き起こされる現象の理解が深まることを期待したい。
参考文献:
[1] R. A. Jameson, IEEE Trans. Nucl. Sci., NS-28, 2408 (1981)
[2] M. Reiser, "Theory and design of charged particle beams", John Wiley & Sons (1994)
[3] I. Hofmann, J. Qian, and R. Ryne, Phys. Rev. Lett. , 86, 2313 (2001)
[4] I. Hofmann and O. Boine-Frankenheim, Phys. Rev. Lett. , 87, 034802 (2001)
■10/29-31 第13回加速器科学研究発表会 大阪大学コンベンションセンター
「日本は昔加速器で元気だった」話から始まる「日本の加速器の歴史(仮題)」の招待講演や,懇親会における最近公開された,戦争直後の「サ
イクロトロンの破壊」のビデオの
放映企画があります.
■11/12-14
Workshop on Ion Beam Cooling --- toward the Crystalline Beam ---
,京都大学宇治キャンパス 共同研究棟.
ビーム結晶化の最新の結果について、トラップでの
結果も含めて、実験、理論の両面から分析し、現状の統一的理解を深めるとともに、
3次元的なビームの結晶化を実現するための方向性を見いだすべく議論を深めたい.また、広くイオンビーム冷却とそれに関連する物理、冷却(結晶化)ビームのあらたな
応用についても、セッションを設ける.
■12/5-7 ビーム物理研究会,SpRing8.
■2002/3/13-16 International Symposium
on Science of Super-Strong Field Interactions 葉山 総研大.10/12
以下の会合のプロシーディングスがpdf形式でダウンロードできます.
■第25回リニアック技術研究会 7/12-14/2000 SPring-8.
Physical Review Special Topics-Accelerators and Beams (PRST-AB) をご存じですよね. The journal covers the full range of accelerator science and technology: subsystem and componenttechnologies; beam dynamics; applications of accelerators; and design, operation and improvement of accelerators used in science and industry. This includes high energy and nuclear physics, synchrotron radiation production, spallation neutron sources, medical therapy, and intense beam applications, among others.ということです.
ところで,以下のビーム物理の教科書がpdf形式でダウンロードできます. すでにホームページに教科書を掲載していて,ここに取り上げても良いという方はご一報下さい.
■町田慎二 Space Charge Effects http://hadron.kek.jp/member/machida/pub/pub.html
■鎌田進 ビーム物理学入門 http://www-acc-theory.kek.jp/members/kamada.html
■平田光司 "Advanced Single Particle Dynamics" (RIKEN Winter School on Physics of Beam)(1998) (日本語:単粒子力学上級編) http://www-acc-theory.kek.jp/members/HIRATA.html
■小方厚 レーザー・プラズマ・ビームの相互作用 http://home.hiroshima-u.ac.jp/~beam/ogata.html
■J. Rosenzweig " Fundamentals of Beam Physics" http://www.physics.ucla.edu/class/00W/150_Rosenzweig/notes/index.html,著者はUCLAのBeam Physics Labの教授.