日本物理学会若手奨励賞(ビーム物理領域)




■ 過去の受賞者
2016年度
2015年度
2014年度
2013年度
2011年度
2010年度
2009年度
2008年度
2007年度
2005年度


募集要項および細則 

第11回 日本物理学会若手奨励賞募集要項(ビーム物理領域)
  1. 趣旨
     ビーム物理学において、若手研究者の独創性に優れ、世界的にも高い評価を受ける業績をおさめた研究を受賞対象とし、ビーム物理学分野の将来を担う研究活動を奨励する。
  2. 応募資格
     ビーム物理分野での研究開始後10年程度以内または博士号取得後5年程度までの原則として37歳以下の若手研究者を対象とする。日本物理学会会員であること。(選考過程で未会員の場合は、候補者として確定した段階で物理学会会員となることも認めるものとする。)
  3. 審査基準
     合格審査を受けた博士学位論文もしくはレフリーつき雑誌に公表された論文(掲載決定済も可とする)の評価を基本とし、物理学会をはじめとする学会、国際会議等での発表も考慮し、研究内容全体を総合的に評価する。共同研究の場合は候補者の主体的貢献度を審査する。候補者の研究者としての将来性に関する評価も行う。
  4. 選考方法
     ビーム物理研究会会員の推薦または応募による候補者について、ビーム物理領域委員会に設置する選考委員会が選考し、物理学会に推薦する。
  5. 表彰件数
    2名以内
  6. 表彰
     日本物理学会の年次大会に於いて授賞講演に招待し、賞状を授与する。
  7. その他
     実施の詳細については日本物理学会の若手奨励賞実施要綱に準拠するものとする。


2017年度募集実施細則
  1. 応募ないし推薦の締切
     2016年7月31日(月)(必着)
  2. 選考日程
     9月末までに受賞者氏名・受賞対象論文名等を選定理由とともに事務局を通じて理事会宛に提出する。選考結果は2016年10月開催の日本物理学会理事会後、領域代表を通じて受賞者に通知する。その他の日程については、日本物理学会ホームページ上の第11回若手奨励賞受賞記念講演スケジュールを参考にすること。
     http://www.jps.or.jp/activities/awards/schedule/schedule2017.html
  3. 提出書類
     発表論文、履歴書及び研究歴、さらに、自薦の場合には、受賞対象となる研究の概略と意義 (二千字程度)、他薦の場合には受賞対象となる研究の概略と意義を含む推薦書(二千字程度)。以上を、下記に郵送する。
  4. 書類提出先
     〒739-0046 319-1106
      茨城県那珂郡東海村白方2-4
      量子科学技術研究開発機構 羽島良一
  5. 年齢制限に関する補足
     募集要項第2項に記載された年齢の算定基準日は2017年4月1日とする。ただし、出産、育児により研究を中断するなどの事情がある場合は、これを考慮する。
  6. 問い合わせ先
     羽島良一
     e-mail : hajima.ryoichi(at)qst.go.jp
     phone : 070-3943-3449

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2016年受賞者(1 名)

永田 祐吾 東京農工大学工学部

受賞対象:
"A source of antihydrogen for in-flight hyperfine spectroscopy", N. Kuroda, S. Ulmer, D.J. Murtagh, S. Van Gorp, Y. Nagata, et al., Nature Communications 5, 3089 (2014).
"A novel property of anti-Helmholz coil syntheses of antihydrogen atoms: formation of a focused spin-poarized beam", Y. Nagata and Y. Yamazaki, New J. Phys. 16, 083026 (2014).
"Cooling by Spontaneous Decay of Highly Excited Antihydrogen Atoms in Magnetic Traps", T. Pohl, H. R. Sadeghpour, . Nagata, and Y. Yamazaki, Phys. Rev. Lett. 97, 213001, (2006).

選考理由
永田氏はCERNのAD (Anti-proton Decelerator)から得られる反陽子から基底状態の反水素原子を生成し、原子核分光の手法により水素原子と比較することでCPT対称性の破れを検証するユニークな実験計画であるASACUSAに参加しています。永田氏はアンチヘルムホルツコイル型の磁場(カスプ磁場)中での水素原子の脱励起による冷却の発見、カスプ磁場の収束作用の定量的評価、ダブルカスプ磁場による収束作用を利用した反水素原子ビームの強度および偏極度の増大、BGO無機シンチレーターによる反水素信号の同定と宇宙線バックグラウンド事象の抑制など、実験の核心をなす部分において大きな寄与が認められます。これらの研究内容は、力学系としてのビームの性質を理解し、制御するという、ビーム物理的要素が多く含まれ、また反水素合成というユニークな研究において、反水素原子の生成およびその確認に大きな寄与が認められることから、日本物理学会、ビーム物理領域の若手奨励賞にふさわしいものと判断いたします。  そもそもビーム物理とは、ビームという科学研究において利用範囲の広い力学系を結節点として、異分野の融合による科学研究の進展、またあらたな分野の創出を意図したものです。今回の受賞対象となった研究はCPT対称性の破れの検証という素粒子物理学における一大テーマを目的としたもので、永田氏の業績が示す通り、そこにビーム物理的手法を持ち込むことで、反水素ビームの増大が実現され、反水素原子による原子核分光という新たな研究の扉が開かれたことは示唆的です。この受賞をきっかけとして、原子核分光にとどまらず、ビーム物理と他分野との連携が深まり、科学研究の新たな展開、そして研究分野の広がりが、今後より一層進展することを期待します。
以上の理由から、永田氏は若手奨励賞に値すると判断する。

審査委員: 栗木氏(広大:委員長)、横田氏(JAEA)、加藤氏(分子研)、大熊氏(JASRI)、宮本氏(兵庫県立大)、小関氏(KEK)

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2015年受賞者(2 名)

原田 寛之 日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター

受賞対象:
博士論文 Painting-injection study using a virtual accelerator in a high-intensity proton accelerator (広島大学・博士(理学))

関連発表論文:
“Beam-commissioning study of high-intensity accelerators using virtual accelerator model”, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A602, (2009) 320-325
“Painting-injection study suing a virtual accelerator in a high-intensity proton accelerator”, KEK report 2009-7, September 2009 A
“Beam emittance control by changing injection painting area in a pulse-to-pulse mode in the 3GeV rapid cycling synchrotron of Japan Proton Accelerator Research Complex”, PHYSICAL REVIEW SPECIAL TOPICS- ACCELERATOR AND BEAMS, 16, 120102 (2013)
“Quantum monitoring of the stripper foil degradation in the 3-GeV rapid cycling synchrotron of the Japan proton accelerator complex, J Radioanal Nucl chem (2014) 299:1041-1046

選考理由
原田氏は、J-PARC RCSにおけるペインティング入射の確立およびビームコミッショニング用オンラインシミュレーションシステム(仮想加速器とも呼ばれる)の開発に中心的な役割を果たし、RCSの初期ビームコミッショニングとその後のビーム強度増強に大きく貢献した。ビームコミッショニング用オンラインシミュレーションシステムでは現実の加速器に含まれる理想値からのズレを実測に基づいて詳細に評価し計算モデルに反映している。これは、実際のビームを理論と近づける努力という観点で大きな成果であるばかりでなく、このような手法は先端的なビーム加速システムを構築する際には大変重要なアプローチであり、今後標準的なものとして使われていくと思われる。また、原田氏は、大電流加速器では大きな問題となるビームロスに対してもシミュレーションと実験によって原因を特定し改善するなどの成果を挙げている。原田氏の基礎的な観点からマシンスタディを行うという態度はビーム物理としての王道であり、原田氏の高い能力が伺える。これらの成果は、博士論文やいくつかの査読付き論文としてまとめられており、原田氏の貢献は多大であると判断できる。
以上の理由から、原田氏は若手奨励賞に値すると判断する。

中尾 政夫 (独)放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター 物理工学部・サイクロトロン運転室

受賞対象:
博士論文 シンクロ・ベータトロン共鳴結合による間接的横方向レーザー冷却の実証(京都大学・博士(理学))

関連発表論文:
“Resonance coupling induced enhancement of indirect transverse cooling in a laser-cooled ion beam”, PHYSICAL REVIEW SPECIAL TOPICS- ACCELERATORS AND BEAMS, 15, 110102 (2012)

選考理由
中尾氏の研究は、イオンビームのレーザー冷却に関するもので、通常ビーム進行方向の冷却に限られているレーザー冷却を横方向に拡張する手法として理論的に提案されていたシンクロ-ベータトロン共鳴結合法を実験的に実証し、レーザー冷却によって実現された横方向の世界最低温度を達成した。
具体的には、進行方向冷却をエネルギー分散を経由したx−s結合を利用してx方向に効率的に回り込ませ、シンクロベータ共鳴条件を用い効率的にx方向の冷却を行う手法(シンクロ-ベータトロン共鳴を利用した冷却力の三次元化)の実験を小型イオン冷却蓄積リングS−LSRにおいて行い、この手法によるイオンビームの横方向レーザー冷却を世界に先駆けて実験的に実証した。この成果は結晶化ビームストリングの形成に向けた重要な一歩としてビーム物理学上極めて大きな意義を持つ。シンクロ-ベータトロン共鳴結合の手法自体は彼自身の発案によるものではないが、色素レーザーの安定発振、倍波生成、イオンビーム軌道への導入、さらにはビームサイズのCCDによる観測と、実験のすべての面において粘り強く研究開発に取り組み、素晴らしい成果を上げたことは大いに評価できる。レーザーと荷電粒子ビームとの相互作用は、基礎科学的にも、応用技術的にも、大きな発展性を秘めており、そのような観点からも中尾氏は将来の活躍が期待される。
以上の理由から、原田氏は若手奨励賞に値すると判断する。

審査委員: 鷲尾(委員長、早大)、伊藤(京大)、神門(JAEA)、栗木(広島大)、大見(KEK)、小関(KEK)

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2014年受賞者(1 名)

井上 竣介 京都大学化学研究所

受賞対象:
博士論文 Femtosecond Electron Deflectometry for Measuring Ultrafast Transient Field Induced by Intense Laser Pulses
(高強度レーザー誘起超高速過渡電場測定のためのフェムト秒電子偏向法) (京都大学・理学博士)

関連発表論文:
“Autocorrelaltion Measurement of Fast Electron Pulses Emitted through the Interaction of Femtosecond Laser with a Solid Target”,  Physical Review Letters, 109, 185001 (2012)
“Femtosecond electron deflectometry for measuring transient fields generated by laser-accelerated fast electron”, Applied Physics Letters 99, 031501 (2011)
“Single-shot microscopic electron imaging of intense femtosecond laser-produced plasma”, Review of Scientific Instruments 81, 123302 (2010)

選考理由
井上竣介氏は、高強度レーザーを固体に照射したときに生成されるレーザー加速電子パルスを用いて超高速に変化する電磁場を観測する「フェムト秒電子偏向法」を開発し、レーザープラズマ近傍に生成された過渡的な電場を100 フェムト秒程度の時間分解能で測定することに成功した。さらにレーザー加速電子のパルス幅やそれらが作り出す電場を、2つの電子ビームに時間差をつけて相互作用(自己相関)させるという独自の方法で計測し、過渡的な電場の強さと電子ビームのパルス幅計測を精密に評価した。これらは、レーザープラズマ相互作用の理解に対して実験的なデータを提供する点で重要であるとともに、応用の観点からは時間分解型電子顕微鏡へと繋がる成果であり、今後の発展が期待される。 井上氏自身の貢献は、その成果が博士論文としてまとめられていること、及び井上氏を筆頭著者とする質の高い関連論文が3本あることから、多大であると判断できる。これらの成果は、他領域と比較しても井上氏が若手研究者としてハイレベルな資質を有することを示しており、井上氏の今後の活躍も非常に期待できる。
以上の理由から、井上氏は若手奨励賞に値すると判断する。

審査委員: 鷲尾(委員長、早大)、伊藤(京大)、神門(Spring8)、栗木(広島大)、大見(KEK)、小関(KEK)

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2013年受賞者(2 名)

平 義隆 独立行政法人 産業技術総合研究所

受賞対象:90度衝突レーザーコンプトン散乱を用いた超短パルスガンマ線発生とその応用に関する研究

選考理由
平 義隆氏は、放射光源用電子蓄積リングを用いて、レーザーコンプトン散乱によるガンマ線領域の超短パルス光源の開発とその超短パルスガンマ線を用いた陽電子消滅寿命測定実験を世界で初めて行った。
近年、レーザー、電子線、エックス線などの量子ビームにおいてサブピコ秒領域での発生手法が活発に研究され、高速現象の観測における強力なツールとして利用されているが、ガンマ線の超短パルス化に関する研究はこれまで行われていなかった。平氏は小型シンクロトロン光源加速器UVSOR-IIにおいて、垂直サイズの小さい周回電子ビームに対してレーザーを直角方向から入射することによって超短パルスのガンマ線を発生させること、またレーザーの入射角度を変えることで発生するガンマ線のエネルギーを連続可変とすることに成功した。レーザーを直角方向から入射して超短パルス線を発生させる方法は、ライナックからの低エネルギー電子ビームに対して行われている超短パルスエックス線の発生法から着想したものであるが、電子ストレージリングのビームに対して適用したのはこれが世界で初めてである。平氏はまた、この超短パルスガンマ線を用いて陽電子消滅寿命測定を行い、材料欠陥評価に応用できることを示した。陽電子の消滅寿命より十分短いガンマ線のパルス幅が得られるようになったことで初めて実現した応用である。
また、サブピコ秒領域のパルス幅を直接測れる装置がないため、平氏は陽電子消滅寿命測定実験データから間接的に導きだす手法を考案して、生成した超短パルスガンマ線のパルス幅が電子ビームのバンチ長よりも確かに短くなっていることを示した。さらに、光カー効果を用いた超短パルスレーザーと超短パルスガンマ線のポンププローブによるパルス幅測定方法を検討し、サブピコ秒領域のパルス幅の測定が可能であることを示した。
以上のように、平氏は本研究分野の魁となる研究を行い将来の発展に寄与する優れた成果をあげた。 よって、ビーム物理領域奨励賞に相応しいと判断する。


時田 茂樹 京都大学化学研究所

受賞対象

  1. “Single-shot femtosecond electron diffraction with laser-accelerated electrons: Experimental demonstration of electron pulse compression,”Physical Review Letters 105, 215004 (2010).
  2. “Collimated fast electron emission from long wires irradiated by intense femtosecond lase pulses,” Physical Review Letters 106, 255001 (2011).

選考理由
時田茂樹氏は、レーザー電子加速による比較的低エネルギー(数100 keV〜1 MeV)の超短パルス電子ビーム発生の研究においてきわめて独創的な成果をあげた。
物質の状態やその変化を調べるには高い空間と時間分解能をもつ観察手法が求められているが、これまでの時間分解電子線回折実験はすべて数psの時間分解能に留まっていた。時田氏は、空間電荷効果を抑え超短パルスかつ大電流の電子ビームを発生させる方法を提案・実証し、500 fsの電子パルスを実現した。これは、フェムト秒テラワットレーザーを1018 W/cm2の強度で薄膜上に集光し、レーザー薄膜相互作用で生成加速される電子パルスを350 keVで運動量幅1 %に切り出し、色消し偏向磁石システムを用いてパルス圧縮することにより得られたものである。そして、この電子源を用いて金の単結晶の回折像を単一パルスで撮像することに世界で初めて成功した。時田氏はまた、5x1018 W/cm2のフェムト秒テラワットレーザーを直径300 mの金属細線ターゲットに照射することによって、200-400 keVの発生電子が細線端より放射され、従来の方法による電子線に比べて輝度が数10倍で指向性の高い電子ビームが得られることを示した。さらに、実験結果をシミュレーションを使って解析し、電子が細線の周りの瞬間的(5 psと50 psの2成分)な電場に捕獲され軸方向に導かれることを明らかにすることによって、レーザープラズマ相互作用の物理に関する理解を深めた。
これらの成果は単一パルス超高速電子線回折の実現においてブレークスルーとなる画期的な業績である。 よって、ビーム物理領域奨励賞に相応しいと判断する。

審査委員: 小山和義(委員長)、栗木雅夫、浦川順治、後藤彰、中村剛、鷲尾方一

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2011年受賞者(2 名)

余語 覚文 日本原子力研究開発機構

対象研究:レーザー駆動イオン加速とその生物応用研究

対象論文

  1. Application of laser-accelerated protons for the demonstration of DNA double-strand breaks in human cancer cells, Applied Physics Letters, 94, 181502 (2009).
  2. Laser ion acceleration via control of the near-critical density target, Phys. Rev. E 77, 016401 (2008)

選考理由
余語氏は、陽子線がん治療を目指したレーザー駆動陽子線の高エネルギー化と加速機構の解明、およびレーザー駆動陽子線の生物影響評価の研究を行ってきた。高強度レーザーを固体薄膜に照射した時に、薄膜の裏面に発生する還流電流がトロイダル状の磁場を誘起してプラズマの膨張を防ぐとこで、小型レーザーからの10fs 程度の短いレーザーパルスが大型装置と同等のエネルギーの陽子線を加速できることを示した。また、レーザー駆動陽子線による生物実験装置を開発し、ヒトがん細胞に陽子線を照射する実験を行い、DNA2本鎖切断によるがん細胞の損傷が観測し、レーザー駆動陽子線により発生する短時間幅・高ピーク電流の粒子線が、従来の治療用加速器による粒子線と同等の治療効果を有することを示した。これらの研究は、レーザー駆動イオン(陽子)加速のビーム発生、がん治療に向けた基礎研究において、本研究分野の将来の発展に貢献する優れた成果である。


亀島 敬 理化学研究所

対象研究:アブレーション型キャピラリー放電導波路によるレーザー電子加速の研究

対象論文

  1. 0.56 GeV laser electron acceleration in ablative- capillary-discharge plasma channel, Applied Physics Express 1, 66001, (2008).
  2. Laser pulse guiding and electron acceleration in the ablative capillary discharge plasma, Phys. Plasmas 16, 093101 (2009).

選考理由
亀島氏は、高強度レーザーを用いた電子加速で問題となっている加速距離の拡大に対して、アブレーション型キャピラリー放電導波路を用いて解決を試み、0.56 GeV の単色電子加速に成功した。さらに、アブレーション型キャピラリー導波路の寿命問題について、実験を通した考察を行った。これらの研究は、アブレーション型キャピラリー放電導波路を用いたレーザー電子加速の実証と導波路の損傷メカニズムの解明として、レーザー電子加速のエネルギー増大に必要な加速距離の拡大につながる優れた成果である。

審査委員: 羽島良一 (委員長)、小山和義、栗木雅夫、浦川順治、後藤彰、中村剛

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2010年受賞者

岩井 良夫 独立行政法人理化学研究所

対象論文/対象研究
Ion Irradiationin in Liquid of μm3 Region for Cell Surgery
(細胞手術のための液体中の1個の細胞小器官へのイオン照射の研究)
Y.Iwai, et al. Applied Physics Letters 92, 023509(2008)

選考理由
岩井良夫氏の研究は先細型ガラスキャピラリーを用いてマイクロビームを形成し、溶液中の一つ一つの細胞および細胞内小器官にねらいをつけて照射する技術の開発である。放射線生物学においては、対象とする細胞等の典型的な大きさが1μm程度であり、個別の細胞に対してイオンビームのエネルギー付与するには、非常に小さいビーム径に収束させたマイクロビームの形成技術が必須である。従来はイオンビームの輸送路の真空を封じる10μm程度の隔壁があるため、これを通過したビームは進行方向に広がり、1つの細胞だけを照射することが困難であった。
 岩井氏は、先細型ガラスキャピラリーの出口を隔壁の代わりに厚さ数μmのガラスで蓋をする新しい技術を開発し、イオンビームのエネルギー付与領域が3次元的に1μmのオーダーで制御を可能にすることに成功した。この蓋付先細型ガラスキャピラリーはミューオンや陽電子のマイクロビーム形成も可能と考えられ、将来的な応用が広いと期待されている。
 生体へのビーム照射はガン治療などで広く臨床応用が進められているが、この研究は個々の生きた細胞や組織を狙ってイオンを照射することによって放射線生物学の基礎研究を進展させるものであり、多大な貢献がもたらされると予想される。「細胞手術(cell surgery)《という新しい概念を具現化する発端研究として、新しい放射線生物学研究分野を開拓したものとして世界的にも高く評価される所であり、ビーム物理領域若手奨励賞に相応しいと判断する。

審査委員: 遠藤一太、濱広幸、羽島良一、小山和義、岡本広己、浦川順治

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2009年度受賞者

渡部貴宏 財団法人高輝度光科学研究センター(SPring-8)

対象論文
シード光増幅型自由電子レーザーにおける初めてのSUPERRADIANT発振の観測
Experimental Characterization of Superradiance in a Single-Pass High-Gain Laser-Seeded Free-Electron Laser Amplifier

選考理由
渡部貴宏氏の研究は、シード光増幅型の自由電子レーザー(FEL)発振において理論的に予測されていたsuperradiant領域の存在を初めて実験的に明らかにしたものである。
 近年X線域での発振を目指した自己増幅型FELの開発が世界各地で進展しているが、これらのFELは電子ビームのショットノイズを種光とするためレーザー光は時間領域において単一モードで成長せず、ランダムなスパイクを持つショットごとに異なるパルス構造である。これに対し外部レーザーを種光とした増幅器型FELでは、増幅過程において種光の時間的性質やコヒーレンスを維持するため出力レベルの安定性も含めレーザー光の諸性質が制御可能と考えられ、より進化した形態として注目されている。更には、より綿密な理論的研究から、このような増幅器型FELにおいてはシード光パルスが電子バンチに比べて短いなどの条件下で通常の指数関数的増幅過程の飽和後、FEL光の群速度が光速に近づく伝搬領域に進入し、時間依存性に特徴づけられるsuperradianceと呼ぶ新たな非線形レーザー増幅過程が起きると予見されていた。
 当該論文ではシード光増幅型FEL光の波長領域および時間領域における強度と位相の分布を、高度な測定技術によって質の高いデータを取得し数値シミュレーションと比較して、superradianceの存在を検証した。この実験は光測定のみならず高品質の電子ビームを生成する高度な加速器技術が上可欠であるが、渡部氏は実験グループの中心的存在として、これらを極めて高いレベルで駆使したと認められる。
 この研究はFEL物理の実験的検証にとどまらず、光(レーザー)と電子ビームの融合による新しい光源の物理研究分野を開拓したものとして、世界的にも高く評価される所であり、ビーム物理領域若手奨励賞に相応しいと判断する。

選考委員: 遠藤一太、熊谷教孝、佐藤健次、野田章、羽島良一、浜広幸(委員長)

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2008年度受賞者

神門正城(日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門)

対象論文
M. Kando, Y. Fukuda, A. S. Pirozhkov, J. Ma, I. Daito,L.-M. Chen, T. Zh. Esirkepov, K. Ogura, T. Homma, Y. Hayashi, H.Kotaki, A. Sagisaka, M. Mori, J. K. Koga, H. Daido, S. V. Bulanov, T.Kimura, Y. Kato, and T. Tajima, "Demonstration of Laser-Frequency Upshift by Electron-Density Modulations in a Plasma Wakefield", Phys. Rev. Lett. 99, 135001 (2007)

選考理由
 神門正城氏の仕事は、これまで理論的可能性が指摘されていたレーザープラズマ飛翔鏡について、実験的にその効果を検証したものである。プラズマ中に高強度超短パルスレーザービームを照射することで、 ほぼ光速で進行するプラズマ電子の疎密構造が生まれる、これが、 あたかも光速に近い速度で進行する鏡のような効果を発揮するというのが、飛翔鏡の最も重要なポイントである。この効果が実現すれ ば、飛翔鏡に対向してレーザービームを入射することで、飛翔鏡による反射および集光、さらに相対論的ドップラー効果による波長変換によって、より高エネルギーにシフトした高強度超短パルス光が生成できると期待される。
 提出された論文によれば、生成パルス光の計測を通じて、短パルス化、短波長化、狭帯域スペクトル特性などを確認し、生成パルス光 が、トムソン散乱や高調波生成の結果生じたものではなく、電子群との集団的相互作用の結果によって生成されたと結論、飛翔鏡としての効果を実証している。
この実験的検証においては、精密な時間空間的アラインメントの実現や、適 切な計測装置による生成パルス光の評価が肝要であるが、 神門氏は実験チームの中心的存在としてこれらを遂行したと判断される。
 以上の仕事は、物理学における新しい分野展開の端緒を示したもので、世界的にも高く評価される所であり、ビーム物理領域若手奨励賞に相応しいものと判断した。

選考委員: 遠藤一太、鎌田 進(委員長)、熊谷教孝、佐藤健次、野田章、浜広幸

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2007年度受賞者

黒田直史 ASACUSA Collaboration (AD-3) / PH/UAD, CERN; 理化学研究所山崎原子物理研究室

選考理由
 黒田直史氏はCERNの反陽子減速器(Antiproton Decelerator: AD)からの5.3MeV反陽子ビームをASACUSA(Atomic Spectroscopy AND Collisions Using Slow Antiprotons)のビームラインに設置したRFQ減速器(RFQD)を用いて10~120keVまで減速した後、下流に設置した改良型ペニングトラップで捕獲する手法により、従来のdegrader foilを用いる手法に比して50?の強度である~106 個の低エネルギー(~110keV)反陽子が蓄積可能であることを示し、さらにトラップ内の非中性電子プラズマのモード周波数のシフトの観測により、電子プラズマによる反陽子の冷却過程を非破壊的に実時間測定することに成功している。
 同氏が中心となって開発したこの超低速単色反陽子ビームの生成方法により、低エネルギー反陽子と原子の衝突実験、特に反陽子原子生成過程及びイオン化過程の実験的研究、反水素原子の大量生成等の従来上可能と考えられていた種々の研究が可能となり、原子・分子の研究の進展に大きく貢献した。この業績はビーム物理学を駆使した結果達成された成果といえ、境界領域研究、学際研究を牽引するというビーム物理領域ならではの業績といえる。
 以上のべた理由により、黒田直史氏のこの業績は、日本物理学会のビーム物理領域の若手奨励賞を授与するにふさわしいものであると判断した。

対象論文
N. Kuroda, H.A. Torii, K. Yoshiki Franzen, Z. Wang, S. Yoneda, M. Inoue, M. Hori, B. Juhasz, D. Horvath, H. Higaki, A. Mohri, J. Eades, K. Komaki and Y. Yamazaki, “Confinement of a Large Number of Antiprotons and Production of an Ultraslow Antiproton Beam”, Phys. Rev. Lett, 94,023401(2005).

選考委員:井上信、小方厚、鎌田進、熊谷教孝、佐藤健次、野田章(委員長)、平田光司
2005年度はビーム物理学研究会の賞でしたが,この年度から日本物理学会の賞となり,最終決定は領域代表会議でなされることとなりました.

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2005年度受賞者

上杉智教 放射線医学総合研究所加速器物理工学部
小滝秀行 日本原子力研究所関西研究所

選考理由

上杉智教氏
 上杉氏は放医研のHIMACシンクロトロンに設置されている電子ビーム冷却装置を用い,電子ビーム冷却および冷却蓄積に関する基礎的な実験研究を行い,高密度ビームの振る舞いや2ビーム相互作用に関する重要な知見を得た.
 ただし選考委員からは,実験結果の解釈では既成概念に引きずられており,氏独自の視点に基づいたより深い解析やシミュレーションが望まれるとの指摘があった.優れたプロファイルモニタが整備されていることも含めて,HIMACは空間電荷効果の研究に最適であることに鑑み,今後のさらに深い研究が期待される.

対象論文
T.Uesugi, K.Noda, E.Syresin, I.Meshkov and S.Shibuya, “Cool-stacking injection and damping of a transverse ion-beam instability at the HIMAC synchrotron”, Nucl. Instr. and Meth. A545 (2005) 45-56.

小滝秀行氏
 小滝氏の主論文はレーザー加速においてポンプのほかにこれに対向するレーザーをプラズマに入射し,単色短シングルバンチを得るという方式の提案である.このような明確な物理的描像にもとづく単色ビーム生成こそ必要であり,実用価値も高い.
 ただし応募文では最近の単色ビーム生成実験との関連を明らかにすべきであった.このアイデアへの小滝氏・共著者の寄与の比率が上明であり,シミュレーションだけでは上十分との指摘もあったが,氏が関与した一連の実験と,実験も計算も手がけるという態度が評価された.この論文の提案を早急に実験に移すことが望まれる.

対象論文
H.Kotaki, S.Masuda, M.Kando, J.K.Koga and K.Nakajima, “Head-on injection of a high quality electron beam by the interaction of two laser pulses” Phy. Plasmas 11 (2004) 3296-3302.

選考委員: 井上信、小方厚(委員長)、鎌田進、熊谷教孝、佐藤健次、平田光司

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